人の常識はさまざま

東洋経済オンライン・2017年11月08日の記事、『「教育困難大学」で大暴れする不良学生の実態』をfacebookでシェアしました。ただシェアするのではなく、「近い状況に身を置いていたことがあるので、映像が浮かぶレベルの話。対話を重ねていかないと前に進まないのに、コストの関係もあり専門知識のない教員が片手間で対応せざるをえない状況。」というコメントを付けて。

数分後に知人からのコメント。「私の周りでは、このシリーズの記事やこのライターに否定的な方ばかりでしたので、新鮮で参考になります!」とのこと。

なるほど、私(たち)にとって当たり前の世界は、多くの人には認識されていないのだということを改めて知ることになりました。そこで、今日は、キャリア支援における水面下(ようするに、普通の社会人生活をしていたら見えないカテゴリの人たち)の出来事について軽く述べることにしました。

やりたいことがまったく決まっていないので、学部・学科選びも大変だ。結局、いわゆる「潰しが利く」といわれている社会科学系や文系の学部を選ぶことになる。大学側がいろいろと工夫して決めた学部の特色などもこのタイプの生徒たちはまったく意に介さない。ただただ「楽な大学」を選びたいと考えるのみなのだ。

出展 : 「教育困難大学」で大暴れする不良学生の実態

こういう大学生は多いと思う。昨日も、学部3年/M1の学生にキャリア支援の講義をしてきたけど、ほんと何も考えていないんだなって心配になっちゃう学生も散見された。誤解のないように付け加えると、ほとんどの学生は指示された通りのことはちゃんとやる。でも、それ以上やろうとする学生はそんなに多くない。

 

税金は上手に使ってほしいと願う

私は、職業訓練校で20年ほど指導員をしていました。1995年に採用された頃は、バブル崩壊直後で就職難の生徒たちがたくさんいました。私は高卒というコンプレックスを抱えていたけど、彼らは有名大学を出たにも関わらず就職ができなかったとか、就職したけれど事情があって辞めてしまったわけです。今でこそ、転職という選択もアリだと思われるようになりましたが、20年前は大企業神話、公務員神話、終身雇用が当たり前という価値観が当たり前。そんな中、会社を辞めるというのは、彼らなりに大きな決断だったに違いありません。下には下の、上には上の悩みがあるわけです。

概ね、仕事に就きたいという意思があって、職業訓練校に応募した。今思うと、かなり前向きな行政の使い方、税金の有効活用だったなと思うわけです。中には「前職でうつ病になり退職して、まだ仕事に就くつもりはないけど、調子が良くなってきたからリハビリにきました」なんて言う生徒もいたにはいた。他の生徒の手前、正直目障り。でも、クラスの中をかきまわされても外圧がないだけマシ。

それによく捉えれば、行政のセーフティーネットを上手に使いながら、仕事復帰の道を探っていたというわけで、個人的な相性こそよくなかったけど、最近のクレーマーに比べたら可愛いものだった。

 

採用から10年経ち、異動で短大の専任講師となりました。この頃は、自分より優秀じゃないか(?)と思うような学生が散見され、講師側も必死にやらないと馬鹿にされちゃうという良い意味でのプレッシャーもあり、かなり自分の仕事に向き合うことができた時期。ここで培われた就職指導の熱意は、今につながっていると確信できる。今でも卒業生とつながりがあって、食事をしたりする。

9年の短大勤務を振り返ると、中には申し訳ないくらい理解度の低い学生がいて、最初の1ヶ月で「卒業は無理だな」って誰もが気づく。これは講師だけじゃなく、学生側も気づいちゃう。そうして少しずつ孤立していくというパターン。もちろんその一人のために授業を遅らせるというのは短大では許されない。でも、できる限りの譲歩はしてあげたいという親心もある。だから、期末の試験一発で終わらせるのではなく、プログラミングとかであれば課題提出である程度の点数はつけてあげるし、希望されれば追試もやったし、補講もやった。それでもダメ。というか、本人が途中であきらめてしまっている。

進級に必要な単位数というのがあり、前期の成績が出た辺りで保護者に、それとなく親に進級が厳しいという情報を耳に入れておく。親も分かっていて、高校卒業して就職もできないから指定校推薦で進学させたとか、経済的に厳しいから学費が安い公立の学校にいかせたけど本人は文系志望だったとか、入学するまでの経緯を話してくれたりした。この頃から、お金で学歴が買えるなら進学させたいという考えを持っていた親は(そこまで明確でないかもしれないけど)多い。

 

 

成果を出すよりもクレームを出さない方が重要という評価

辞める6年前に、短大から一般の訓練校へ異動となった。このとき課長に言われたのは、「クレームに気をつけろ」ということ。短大勤務中、未成年中心に指導していると、大人の生徒についつい同じようにやってしまう指導員がいるらしい。確かに、2chなんかでイニシャルはもちろん、中には名指しで文句を言われている指導員もいた。公務員も楽じゃないってつくづくネガティブな感情が出てきた時期でもある。

もともと人に嫌われるのは嫌なタイプだし、感情移入できる性格というのもあって、生徒からは慕われつつ業務をこなしていた。その分、プライベートを削って、できる限りの行政サービスは提供したつもりだ。それでも、H24年頃から、裏から手を回すタイプのクレームが見え隠れしてきて嫌だった。

裏から手を回すというのは、県の組織にクレームを言うということ。指導員や上司に言われるうちはまだ良くて、話し合いの場で解決することも多いけど、頭越しのクレームになるともう大変。表立ってクレームは無かったけど、それでもそういう風潮になってきたという話を課長から何度も聞かされたので、こちらも気をつけるようにはなる。

私が辞めようと思ったのは、定員割れはマズイから全入(入試結果に関係なく全員合格)させなさいという所属長の判断で、自分の中の何かが壊れてしまったから。全入自体は仕方ないとは思うけど、一度入れたら辞めさせられないし、クレームも出されてはいけない。一方で、就職もさせなければならないという現場がどんどん疲弊していくのを見ていたら、いつかきっと体を壊すと思って、退職する準備を始めた。

公務員を辞めるという話を聞くと、9割以上が「もったいない」と言う。でも、人生は一度切り、心身の健康があってこそ人生を楽しむことができるんだから。人生を楽しむために、自分の価値観と合わない世界から足を洗ったと言えば、少しは理解していただけるのだろうか。

 

学歴は分かりやすい指標だけど、最後は人間力の勝負

学力が低いと、「せめて専門学校くらいは」という親、かなり多い。けど、専門学校だって商売でやってるわけで、何も考えていないなら、一度高卒で就職させてみるっていう手もあると思うんだ。私の高校の同期は、高卒だけど一部上場企業に就職。とあるスポーツチームでユニフォームスポンサーにもなってるところでかなりの有名企業。そこに、27年勤めてる。

別の友人は、高卒で製造職に就いたら、人手が足りないということで営業職へ転換。でも、自分のやりたいことを目指したいと言って退職。料理人の修行中。彼はまだ20代だけど、行動力があって応援したくなるし、新たなご縁がどんどんつながっていく魅力のある人物。

最近の子って、価値観がわからないくせに、評論家ぶるところがあって、できない理由ばかり見つけるところが目立つ。けど、これって親のせいなんじゃないかって思う。親のそういうところを子供は見ているんですよね。もし本当に目標がないなら、目の前で就職できるところにお世話になって、社会との接点を持ちつつ成長させて頂く。それがそのままズルズルいくこともあるかもしれないけど、信念がないなら終身雇用がまだ残っている組織に入るっていうのは賢い選択と言えるんじゃないかな。

簡単な道って、誰もが通れる道だから、なんか人口密度が高くなりやすいしライバルだって多いから結局めんどくさい。難しい道って、険しいけれど、勝ちを分かってもらえる人に出会えたら最高に面白い。こういう価値観だから、きっと私はフリーになったんでしょうね。